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ピックアップ15 樋口研究室 ピックアップ15 樋口研究室

日本は世界の中でも高齢化率が高く、
今後もハイスピードで少子高齢化が
進んでいく国だといわれています。
都市部を中心に多くの箇所で
スロープやエレベーターが設置され、
既にバリアフリー化が
進んでいる地域もあります。
しかし、駅のエレベーターが、
自分の家とは正反対の
場所にしかなかったら?スロープがあっても、
何度も曲がっては進むを
繰り返さなければならないものだったら?
このような、身近な“見えない不便”、
“まだ感じてない不便”について考えることは、
より住みやすい魅力的な
まちづくりには欠かせません。

地域を250m四方に区切り、1区画にどんな施設があるかを図式化。

「そこに生活する人」を中心に街をデザインする

戦後の日本経済の発展は、高速道路などに代表されるインフラストラクチャーの整備を抜きには語れません。たくさんのモノと人をいかに効率よく運べるか?という点が重視され、それを実現してきました。しかし、いくら交通網が発達して便利になっても、高齢者や子どもたちが車におびえて歩いているような街は、本当に良い街だと言えるでしょうか。私たちが土木と聞いてまずイメージする橋などの建設は、地形や風の向き、海流など様々な条件の中で、その状況に応じた工法を検討し、課題を乗り越えながら作られています。土木工学は、技術者としての経験が物をいうことから、“経験工学”とも呼ばれていますが、同じ土木工学が扱う“まち”は人が暮らし安心して住まう場所。橋や道路を建設するときに技術者が経験を生かしてそれぞれに合わせたアプローチを行なうのであれば、同じ“経験工学”によるまちづくりも、そこに生活する人を中心にデザインしていくことが大切なのです。

実際に、高齢者にSCOO(スクー)に乗ってもらった実証実験の様子。

安全でも乗りたくない!?ユーザーの心のハードルとも向き合う。

「まちづくりの中心は人」と語るのは、“交通と福祉のまちづくり”をキーワードに研究を進めている、大同大学工学部建築学科土木・環境専攻の樋口先生です。樋口先生は、名古屋市内の高齢者と連携し、持ち運び可能なパーソナルモビリティ、SCOO(スクー)を地域で共同利用する実証実験に取り組んでいます。土木とは一見関係が薄いように思えるシニアカーのシェアリングですが、実はこれもまちづくりの大切なステップのひとつ。というのも、最近は自転車に乗った高齢者の交通事故が急増しています。高齢者が安心して移動できるまちづくりのためには、二輪で不安定な自転車よりも、安定した四輪のシニアカーの利用促進は急務です。しかし、実際に高齢者に話を聞いてみると「シニアカーは確かに安全かもしれないけど、いかにも年寄りというイメージがあるので乗りたくない」と心理的抵抗を感じる人が想像以上に多く、シニアカー浸透のハードルになっていることがわかりました。施設や設備などモノの充実だけではなく、心理的抵抗を少なくする工夫とアイデアも、まちづくりに携わる人には求められるのです。

「自分の足で現場に行き、当事者と話すことが大切」と語る樋口先生。

街へ出て、当事者目線でまちづくりを考える

技術者の視点だけでバリアフリーを考えると、基準に則った寸法や数のエレベーターやスロープを設置して終わり、かもしれません。しかし技術者ではなく、ユーザー側の視点を想像してみると、どこに設置すると便利か?もリアルに考えられるようになります。「自分が高齢になってみないと高齢者にとって良い街が何かわからない、というのでは困ります。わからない部分は、実際に自分の足で現場に行き、当事者と話すことでそのほとんどの部分が補完されます」と語る樋口先生。まちづくりに携わる公務員や設計会社に就職する人も多い樋口ゼミの学生は、車椅子ユーザーの話を聞き、高齢者がシニアカーで移動する道を歩き、街の今を積極的に肌で感じながら実践的に学びます。「移動制約者」と呼ばれる高齢者や障がいのある方が移動しやすい街というと、私たちは特定のユーザーに向けた特別な配慮のある街のように思いがちですが、それは若く健康な人にとっても暮らしやすい、つまりみんなが暮らしやすい街でもあるのです。住む人、使う人の目線に立ってまちづくりを考えること。それこそが、誰もがいつまでも安心して暮らせるまちづくりの条件なのです。

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