地震などに耐える構造や材料、必要な機能を実現する設計といった技術⾯の学びは、建築学科の学⽣にとってもちろん重要です。しかし、建築に必要な要素は、技術⾯だけではない、と⽶澤先⽣は⾔います。「建築の対象は⼈間です。そして⼈間とは、合理性だけで⽣きる存在ではありません」。何かに感動したり落胆したり、ケンカしたり仲直りしたり、泣いたり笑ったり怒ったり――そんな複雑で不合理な、だからこそ豊かな⼈間の⼈⽣が営まれるステージ、それが建築なのです。だから建築を志す学⽣は、⼈間が持つさまざまな側⾯、多様な価値観を知っておかなければなりません。芸術学・哲学・歴史学といった、⼯学とは縁遠いような学問分野を建築学に含める理由は、そこにあります。
“さまざまな価値観”を知ることは、グローバル化が進む現代では特に重要です。「近代以降に登場したプロダクト、例えば⾃動⾞のデザインは、欧⽶でもアジアでも⼤差はありません。このように“国際的な均質化”が進む今こそ、⽇本ならではの価値観を拾い上げて、現代にふさわしい形で提⽰し直すことが必要です」と⽶澤先⽣。……ちょっと難しい? 具体例で説明しましょう。