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ピックアップ研究24  船橋研究室 ピックアップ研究24  船橋研究室

建築士や空間デザイナーに求められる力には、
さまざまなものがあります。
ときにアーティスティックに、
誰も思いつかないような
おもしろいデザインを生み出す感性。
長年人々が積み上げてきた理論やセオリーに
裏付けられた、説得力のあるデザインを
生み出す理論的思考。
一見正反対に見えるこれらは、
どちらも設計・デザインを行うために
とても重要です。
感性と理論を両立し、
他者の共感を得られる設計・デザインで、
人々が共有できる価値観の
発見・創出を目指していく。
そんな建築士や空間デザイナーを
育成する研究室を紹介します。

大同大学建築学部(仮称)※建築学科建築専攻、インテリアデザイン専攻で教鞭をとる傍ら、建築士や空間デザイナーとしての活動も積極的に行っている船橋仁奈先生。業界の第一線で活躍を続ける船橋先生は、建築設計や空間デザインにおける実践的な学びはもちろんのこと、設計思想や建築士としての姿勢など、設計やデザインへの心構えについても自分の実体験を踏まえたリアルな情報を学生たちに提供しています。
「建築設計にも空間デザインにも、長年人々が積み上げてきたセオリーのようなものがあります。それらを学ぶことはもちろん大切ですが、その枠組みにしばられすぎてしまうと、新しい発想が生まれづらくなります。そこで学生たちには、自分たちの感性を大切にし、自身の問題として建築やインテリアに向き合うことが重要であると伝えています。一方、実務における建築士や空間デザイナーには、仕事を依頼して下さる発注者がいるため、彼らの要望に応え、新たな価値を生み出し、信頼を得ることが求められます。結果として、デザイナーとしての感性や創造力、そしてそれらを言語化し、他者とアイデアを共有するための論理的思考も同時に必要になると言えます。感性と理論の両立を目指し、ひとりよがりではなく、他者の共感を得ることのできる設計・デザインを探求していく姿勢が、何より大切なのです。」
自己の感覚と他者の感覚を理解し、「共有できる感覚」を身につけることは、建築やデザインだけでなく、あらゆるものごとの基本であり魅力である、と船橋先生は言います。

船橋先生が近年手がけたプロジェクトに、「パサージュのある事務所の改修」があります。愛知県名古屋市に位置する老朽化したビルの1階を、オフィスとしてリノベーションしたプロジェクトであり、船橋先生の設計は「日本空間デザイン賞2019」や「グッドデザイン賞2019」にも選出されました。
「この建築はオーナーの自社ビルであったこともあり、ビル全体の水道メーターや汚水桝、その他の設備配管など、定期的な点検を要する部分が1階内部に存在していました。1階の借り主が、自分とは関係しない他の階の設備スペースを請け負わなければならないという状況は、一般的にはなかなか受け入れ難いものです。しかし、この状況をビルの個性や歴史的価値と読み替え、それらを積極的に受け入れる設計を試みました。私的領域であるオフィスの一部を、公共インフラ化する可能性を見出したのです。結果として、この公共化されたスペースにパサージュの概念を落とし込み、「パサージュのある事務所の改修」という空間が生まれました。
パサージュとは、パリでよく見られる大通りの間をつなぐ小路や屋根のついた商店街のことであり、広い意味では、軒先や道などパーソナルなスペースと公共性のあるパブリックスペースの境界となる場所を指します。船橋先生は、執務空間をコアとしてフロアの中央に配置し、その周辺を他者の介在を許容する「パサージュ」としてデザインすることで、様々な境界を跨ぎ合う公共スペースをデザインしました。多くの人々から共感を得たこの設計は、各界からも高い評価を受けています。

船橋先生は、設計やデザインの意図、自分の思いを正しく人に伝える力の育成にも力を入れています。
「船橋研究室では、学生たちにテーマを与え、空間模型を制作してもらったあと、制作者とは別の学生に模型の解説をしてもらうという試みを行なっています。制作者は、他者が理解できるような『人に伝わる設計ができているか』を試され、同時に解説者は『人の設計を理解できるか』、そしてそれを『人に伝えることができるか』が試されています。ただし、私は正解を求めている訳ではありません。自分の意図をうまく解説してもらえた場合、恐らく空間表現としては成功しているのでしょう。一方で、自分の意図とは異なる解説をされた場合は、自分自身の考えを顧みる機会となりますし、何より他者の考えに触れることで自分自身の思考の幅を広げることができます。何事もアウトプットし、そしてもう一度インプットする。その繰り返しによって共感力が養われていくのです。」
建築士やデザイナーが、他者の共感を得られる設計・デザインを行うためには、自分の設計について正しく評価・説明できる力も非常に重要だと語る船橋先生。
「『なぜこのような設計にしたのか』という問いに対して、『好きだから』『良いと思ったから』では、当然ながらプロとしては0点です。自分の作品に対して、建築士やデザイナーは責任をもって意図を説明し、その魅力を伝えなければなりません。他者の共感を得るために、いかにその価値や魅力を共有できるのか…幾多の場面で求められる能力、それが共感力です。」
船橋研究室の学生たちは感性と理論を両立し、設計や空間デザインを通して、人々が共有できる価値観の発見・創出を目指しています。この研究室で培われた共感力は、建築士や空間デザイナーとしてはもちろん、社会生活における様々なシーンで役に立つはずです。

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